聞き手を動かす「プレゼン力」の磨きかた
たとえば、あなたがすごい商品アイデアを思いついたとします。それを発売すれば今の2倍の売上が見込まれる。そんなすごい商品。
あなたは上司にプレゼンします。
アイデアの細部まで、熱く説明するあなた。どんなに素晴らしいアイデアなのか、思いつく材料をしっかりと伝える。バッチリだ。最後まで話を聞いた上司は口を開きます。「すごいアイデアだ。それでいこう!」そんな言葉を待つあなた。だけど出てきた言葉は、
「君さぁ、結局何が言いたいの?もっと分かるように説明してくれ。」
ズッコケるあなた。伝えたいのに、伝わらないことがある。これほど不幸なことはあません。
話の分からない上司だ、とあなたは思うでしょうか。
しかしそこにはもう一つの可能性があります。それは「伝えるのが下手な自分」ということ。残念ながらその可能性は十分にあります。心当たりはないでしょうか?
「伝える」の本質とは?
ところで「伝える」とは、どういうことでしょう?
「伝える」の本質とは「自分の問題(テーマ)を聞き手の問題に変換すること」だと考えます。
誰かに何かを伝えたい。そんなとき人は、つい自分の問題を自分だけの言葉で語ってしまいます。自分にはその問題が大きく見えるので、相手もきっと同じように見えているだろうと考えがちです。結果、こちらのテーマを一方的に伝えることだけに一生懸命になってしまいます。
熱意をもって何かを伝えることは悪いことではありません。少なくとも一生懸命さは伝わるでしょう。ですがそれで相手が「動かされる」かどうかは別問題です。
「相手の気持ちを考えて話をしなさい」と小学生のころ、よく言われました。
そんなことは当たり前だ、と思いますか? なるほど日常会話にかぎれば、多くの人は相手のことを考えながら話ができます。ところが、いざプレゼンとなると、自分だけのデータや思い込みに振り回され、知らず知らずのうちに廻りが見えなくなり、聞き手を置きざりにしてしまうことは多いように思います。
はっきり言いましょう。
実は聞き手は、あなたが考える以上にあなたの話に興味がありません。
聞き手が考えていること
聞き手はきっとこんなことを考えながら、あなたの話を聞いています。
「簡単な話だといいなぁ」
「自分が興味がある話だといいなぁ」
「自分が役に立てるような話だといいなぁ」
「自分にメリットがある話だといいなぁ」
「でも面倒くさい話はイヤだなぁ」
などなど。
あなたが人の話を聞くときを考えてみてください。
心当たり、ありませんか?
聞き手は、その話が「自分にとって分かりやすいか、興味があるか、メリットがあるか」ということを中心に聞いています。つまり、聞きながら「自分の問題になりうるかどうか」ということを吟味しているということです。
最初からあなたの問題を知り、自分の問題としてとらえてくれるような気心の知れた聞き手であれば問題はないでしょう。ですがそんな仲間であっても、よっぽどの悩み相談でないかぎり、「あなたの問題を自分の問題として聞く」などということはまずないでしょう。
プレゼンで自分の思いをきちんと伝えるためには、もっと確実に相手の問題を捉えていなければいけません。
冒頭の上司を例に考えてみましょうか。あなたは「売上を2倍にすること」を自分の問題としてとらえています。しかし、もし上司が「コストを削減すること」を自分の問題としていたらどうでしょうか。
会社の業績アップの観点からみれば、どちらも間違っていません。ですが両者のアプローチは正反対。一時的な売上アップ策よりも、持続的なコストダウンがベストと上司が考えているならば、あなたのアイデアは理解されない可能性は高いといえるでしょう。
あるいは本当に理解できなかったのかもしれません。たとえばあなたの話が横道にそれすぎて要領を得なければ、そもそも上司が「自分の問題」にできるはずがありません。
あるいはあなたが聞き手が理解できない専門用語を使いすぎたとしたら、難しいと感じて、途中から興味を失ってしまったのかもしれません。
いずれにせよ原因は、「あなたの問題」が「聞き手の問題」にうまく変換されていなかったことに尽きます。
「自分の問題」を「聞き手の問題」に変換する方法
では、「自分の問題」を「聞き手の問題」に変換する、すなわち「伝える」を実現するにはどうすればいいのでしょうか?
やることはふたつ。
1. 話をシンプルにする
→ 話の「骨格」をキチンとつくる。誤解や難しさを抱かせない。
2. 聞き手の問題として話を組み立てる
→ 聞き手が感じる疑問をイメージし、それに答える。
プレゼンが上手な人は、必ずこの二つを意識しています。ためしに、あなたの周りのそんな人を想像してみてください。
その人が話す内容は、とても分かりやすいはずです。たとえ横道にそれても、慌てずに本題に戻ってくる。それは話の「骨格」がキチンとできているからです。さらについつい「引き込まれてしまう」ことに気づきましたか?伝え上手な人は、どんなテーマでも、「聞き手の問題」として語ることができます。聞き手に「もっと聞きたい」と思わせ、最後まで興味を失わせない方法を知っているのです。
そんなことが、誰にでもできるのでしょうか?
答えは、もちろん。でもどうやって?
そう、ここでもやはりマインドピースの出番です。
マインドピースは「伝える=プレゼンテーション」の現場にも威力を発揮します。いやむしろこのときこそ、その真価を見せるといっていいでしょう。
聞き手のための骨格づくり。MP式☆プロットマップ
話の骨格をつくる理由はふたつ。
ひとつは、自分の考えを知ること。
自分が何を伝えようとしているのか分からないまま話しはじめてしまう人はとても多いです。話が半ばまでいって、結論が間違っていることに気づいてしまう。そんな事態を防ぐためには、あらかじめ自分の考えをかっちりと持っておくことが必要です。
もうひとつは、ブレないための「帰ってくる場所」を用意すること。
話しているうちにいろんなエピソードがひらめくことってありますよね?帰ってくる場所さえはっきりしていればどんな突飛なエピソードも意外とストーリーにおさまるもの。その場インスピレーションを積極的に生かすことで、あなたの話に躍動感をプラスできます。
だから、決してニュースの台本のように、何もかもを決定事項にしてしまわないこと。あくまで骨格にとどめておくことで、いざ伝えようとするときに柔軟な対応ができることが大切なのです。
骨格さえきちんと作ってしまえば、あなたの話はブレません。
だから決して手の抜けない作業なのです。
では実際にどうやって骨格をつくればいいのでしょうか?
ここで僕自身がいつも骨格作りに使用している手法「MP式☆プロットマップ」をご紹介します。
「プロット」とは「筋書き」のこと。プロットマップはシンプルな4部構成になっています。こんな流れです。
《MP式☆プロットマップ》
1. 序論(Introduction)
→ 導入、テーマ、背景、視点や、アイスブレークなど、つかみ2. 結論(Conclusion)
→ 結論、決断、方向性3. 論拠(Reason)
→ 結論をささえる論拠、要素など4. 行動(Action)
→ 以上をふまえて何をすべきか
僕はこれを「序結論行」と呼んでいます。
もちろん「起承転結」や「三段論法」など、なじみのあるフレームワークを使うのもいいでしょう。でもなにかを「ツタエル」という場合、この「序結論行」がいちばんシンプルで力強いと思っています。
まずは《1.序論》。何を話すのか、その前提や背景を伝えます。話のおおまかな方向性をここでイメージさせたいですね。次に《2.結論》「ぶっちゃけこう思っています」と続きます。結論は先に持ってくる方が男らしくて良いです。そして《3.論拠》でその結論に至った根拠を列挙します。ここで話の7割が費やされます。最後に《4.行動》。だからどうして欲しいのか、どうすべきなのかということを具体的に伝えます。
マップにしてみるとこうなります。
「なあんだ、当たり前のことじゃん」と思いましたか?
そう、べつに特別なことを考える必要はないんです。大切なのは「自分の考えを一度マップにしてみる」という行為。具体的にマップにして全体像をとらえることで、はじめて自分の主張として整理されるのです。
「序結論行」はあなたの考えを引き出すフックのようなもの。その単純な枠組みに自分の考えを配置するだけで、頭の中はスッキリし、テーマが明確になり、具体的に「ツタエル」ことがイメージできるようになります。
さて、これだけでも自分の言いたいことをまとめることはできます。でもひとつ忘れているものがあります。
それは「聞き手の視点」。
マップは聞き手の視点で仕上げるべし。「疑問ピース」で聞き手の視点をビジュアル化
自分の伝えたいことをまとめ、骨格にするのが第一のステップだとすれば、「聞き手の視点で骨格を仕上げる」ことが第二のステップとなります。
「聞き手の視点で」というとなんだかムズかしそうですが、そうでもありません。要は聞き手をリアルに想像してみればいいのです。つまり「聞き手の疑問、質問を想像し、それに答える」ということ。
ボクシングに「シャドウボクシング」という練習法があります。鏡で全身を写しながら行う練習のこと。鏡の中の自分を敵ボクサーと見立てて、パンチをくりだす、そのパンチをよける、そうやって敵のイメージを高める。あの練習法です。
それと同じように、まずは聞き手になりきってみましょう。そして自分の主張のアラを探してみます。相手のパンチがきたら、それをかわすように、矛盾点や説明の足りない箇所を補っていくのです。
まずは聞き手をイメージしてみます。具体的な人物を思い浮かべてみましょうか。
思い浮かべたら、そのひとになりきって、あなたに質問してください。それを「聞き手の疑問ピース」としてマップに追加してきいきましょう。たとえばこんな感じで。
聞き手はあなたの話にどんな疑問を感じているのでしょうか?
想像力をフル動員して聞き手の「問い」をイメージしてください。聞き手はワガママです。「そんなこと聞かれたら身もふたもない」という疑問だってあるでしょう。できるだけ柔軟に想像力をはたらかせてみましょう。
で、思いついたら質問としてどんどんピースに加えます。
いざ質問項目を並べてみると、自分の主張がいかに凝り固まっているかが分かるハズです。「あなたが伝えたい言葉」と「聞き手が聞きたい言葉」の温度差に耳を澄ませることで、自分の意見が客観的に見えてきます。
次はその質問に答える番です。どうしたら聞き手の疑問を解消することができるか。答えはあなたが握っているのです。ときには主張そのものを大幅に修正する場合もあるでしょうし、別の角度から説明するだけで数段分かりやすくなることだってあるでしょう。
「そうか、こういう説明のしかたもあるぞ!」と思ったらすぐに修正。あるいは、納得できるような材料をプラスしていきましょう。そう、いま気づいてよかったですね。
こうして自分の中の聞き手と対話することで、構成力がつくだけでなく、イメージ力も高められ、視野も広がります。
最後に「私の問題に置き換えるとどういうこと?」という問いに答えてみましょう。これに答えることができれば、もう大丈夫。話の骨格は完成です。
あとは自信をもってそのひとに伝えましょう。このマップをプリントアウトしてカンニングペーパーに使うのもいいアイデアです。話がどんなに横道にそれても、マップを見れば迷うことはないのですから。
さらに話しながら、自分の中の小さな変化に気づくでしょうか? いつのまにか、言いたいことを、相手の聞きたいようにと、言葉を選ぶようになっているはずです。「今、どんな言葉を使えば、いちばん伝わるのかな」そんなことを考えるようになるはずです。
知らないうちに「伝える」ことが得意になっている自分にドキッとしてみてください。
見せるより「経験させる」。子を隠す機能
ときにはマインドピースの書類をそのまま見せた方が早い場合があります。
そのとき、気をつけなければならないことがあります。それは、「自分用につくったマップをそのまま見せても伝わらない」ということ。
目の前のマップがなぜ、自分にとって分かりやすいかというと、それは「マップが完成する過程、流れを知っているから」に他なりません。
だから、いくら文章よりは分かりやすいマップとはいえ、そのまま見せて「こういうこと。分かるでしょ?」というのは聞き手にプレッシャーを与えるだけで、伝えることになりません。
だったらどうすればいいのでしょう?
簡単な話です。マップを作成する過程を一緒に体験してもらえばいいのです。マインドピースにはそのために用意された機能があります。それが「子を隠す 機能」。
どのピースも「子を隠す」をオンにすることで子ピースを隠すことができます。
この機能を使えば、たとえば最初は中央のテーマピースひとつだけを表示させておいて、徐々に枝を見せるということができます。
中央のテーマピースだけを見せ、なぜそのテーマに取り組もうと思ったのか、その背景から話しを始め、本題に入るところでピースの「子を隠す」をオフにします。するとはじめて子ピースが表示されるのです。
聞き手はどんなピースが現れるか分かりません。見えないことで聞き手の想像力は高まり、あなたの話にいっそう集中します。子ピースが表示されると「そうそう、やっぱりね」「そういうことか」とひざをうち、次の展開を期待するというわけです。
それはまさに、このマップが作られた手順。つまり、あなたと聞き手で、あらためて同じマップを「作り上げる」ということができるのです。
最初からすべて展開したマップを資料として「見せる」よりも、ピースひとつひとつの展開を「経験」として共有することで、理解度が何倍も違ってくることを想像してみてください。
《親ピースのタイトルのつけかた》
このとき注意したいのが、親ピースのタイトル。子を隠したそれぞれの親ピースのタイトルは、できるだけ「続きがみたい!」と思わせるような魅力的なものにしたい。
たとえばこれぐらい攻めていきたい。
×「この企画の背景」
◎「企画の背景となった衝撃の事件とは?」×「会社が抱える3つの課題」
◎「最強の会社になれる3要素とは?」×「売上向上アイデア案」
◎「◯◯◯で売上が2倍になるかも?」などなど。
「説明」をいかに「謎解き」にできるかがポイントだ。ツタエ上手なひとはこのタイトルのつけかたが絶妙なのだ。
見た瞬間に「それでそれでっ!?」と思わせることができるかできないかで、伝わり度が相当変わってくることを覚えておきたい。
迷子にさせない。イーグルビュー機能
さらに、一部分をズームして見せたいときがあります。今話している内容のピースにだけフォーカスさせたいときがあります。
そんなときに使ってほしいのが「ズーム機能」と「イーグルビュー機能」。
ズーム機能は文字通りある部分を拡大縮小する機能。5段階から選べるので、好きなサイズにズームできます。
そしてイーグルビュー機能。これはズームした範囲を、スクロールバーを操作することなく、マウスにあわせて自由にスクロールできる機能です。ドラッグ操作なしでスクロールするのでプレゼンなどに威力を発揮します。
ズームでフォーカスすることによって、今の話題を際立たせることができます。そしてイーグルビューでダイナミックにスクロールすることで、聞き手の、次への話題への興味を喚起できます。
つまりこれらは、聞き手を「迷子」にさせないための機能。
いかに聞き手を迷子にせず、話題に集中できるようにナビゲーションできるか、ということも「伝える」ために重要な要素なのです。
テキストが活躍する場所。テキストコピー機能
ここからは、「伝える」に関連する、その他の機能をご紹介します。
まずは「テキストコピー機能」。地味だけどとっても大切な機能。
何かを「伝える」とき、マップを使うのがふさわしいときもあれば、同じ内容を言葉にして伝えたいときだってありますよね?
たとえばそれは、自分のアイデアをメールで送りたいとき。あるいはワードでレポートを書いているときなど。マップの一部を「テキストとして」切り取りたいとき。
そんなときに役に立つのが「テキストコピー機能」。
コピーしたいピースを選び「編集メニュー » コピー… » テキストとしてコピー」を選択します。それだけでそのピースと子ピースすべてがテキストとしてコピーされます。
ビジュアルなソフトだけど、それでもやっぱりテキストにキチンと変換できなければ意味がありません。あなたが作ったどんなアイデアも、シンプルなテキストで表現できることを覚えておいてほしいのです。
発想のバリアフリー。パブリッシュ機能
さらに切り取りたいのはテキストだけじゃありません。マインドピースはさまざまな形式でパブリッシュできるようになっています。
以下がマインドピースがサポートする形式です。
「プレーンテキスト」は文字通り完全にプレーンなテキストとして書き出す機能です。メールやワードなど、テキスト文書にそのまま活用できます。
「OPML」とは「Outline Processer Markup Language」の略。一般的なアウトラインデータの形式です。最近ではRSSなどに使われ注目を集めていますが、本来は文書の「アウトライン = 骨組み」を扱うデータ形式。概略をマインドピースで作成し、仕上げを使い慣れたアウトラインソフトでおこなう、といった連携も可能です。(画像など一部のデータは未対応)
「JPEG, PNG, TIFF」は一般的な画像フォーマット。マップを画像として書き出すときに使用します。画像で書き出せばパワーポイントやワードに貼付けたり、そのままメールで送ることもできます。マインドピースを画像生成ツールとして使い、フォトショップで仕上げるのものよいアイデアですね。
あなたの考えたアイデアを的確に「伝える」方法はひとつじゃありません。いちばんふさわしい形式を見つけ活用できること。それもやはりマインドピースの大切な役割だと僕は思うのです。